1月28日。
 さわやかな朝である。
 外では凍てついた空気が、陽の光にぬるまって、最近とみに数の減ってきた鳥の声が、それでもかしましく今日を歌い、平日のこの時間としては、長すぎる微睡みに、だけど沈んでいた臨也の耳に、ピンポーン。
 間の抜けたインターフォンの音が鳴り響いた。
 朝である。




―― hey! is earlier ――




 もぞり。
 身じろいで目をこする。
 温かい寝床から、離れたくなんてない。
 ――たとえ部屋の中が空調により、十分に寒くなどなかったとして。
 まして今は。
 このまま無視してしまおうかと思って、だけど結局は思い直した。
 もう一度鳴らされると、煩わしいというのもある。
 ただ、それだけが理由でもないけれど。
 否、煩わしいことには変わりはないか。
 不機嫌なまま、簡単に服を着込んで、玄関へと向かった。
 ドアノブに手をかけた瞬間に、再度鳴り響いたインターフォンに、ますます不快気に誤魔化すことなく眉根を寄せながら。

「はぁーい。聞こえてるってば、ったく・・・」

 ぶちりとこぼした声は、だが開いたドアの向こうにいた存在に、宙に浮かんだまま固まって。

「パパ!」

 飛び込んできた躰は、小さくて柔らかくて、暖かくて。

「えっ・・・凛音?!」

 驚愕と混乱へと。
 臨也を突き落としたのだった。





+++





 目の前の笑顔に、途方にくれる。
 はじめは、すわ、また誰にも言わずにこんな所まで来たのかと慌てたけれど、どうやら部屋のすぐ傍までは、静雄の母・・・つまり、彼女の祖母に送ってもらったらしい。
 それはそれとして一つ安堵しながら。
 さて、どうしたものかと思い直す。
 ぶらり。
 床に届かない少女の足が視界の端で揺れる。
 注いでやったジュースに伸ばす手は小さくて。
 こぼれる髪の艶やかささえ無邪気だ。
 その色が、好きなのか。
 こないだ見たのとは違うツーピース。
 だけど色は同じ、淡いピンクの。
 春めいて華やいだ趣味のいいスカートを、足と一緒に揺らしている。
 思えばさっきまで着ていたコートも、一見白に見えながら、よくよく見ると赤みがかっていて。
 誰の趣味なのかと、ちらりと思った。
 冬の陽射し暖かく、まだ春は遠いけれど。
 それでもきっと、そんなにも先などではない。
 少女は笑う。
 何処かわくわくと。
 希望に、その琥珀の瞳を揺らして。
 彼と同じ色の瞳を揺らして。

「で。今日はどうして此処に?」

 戸惑いは僅かの間に綺麗に拭い去って。
 柔らかく。
 殊更柔らかく、少女に声をかけた。
 臨也は決して、子供受けが悪いというようなことはなかったけれど。
 それでもこの少女には、出来るだけ好印象を持っていて欲しかったので。
 少女はにこりと笑みを浮かべた。
 子供らしい、邪気のない笑みを。
 カーテンのないベランダから、陽の光が眩しいほどに射し込んで。
 整った空調と相俟って、酷く心地いい暖かさの中で。

「今日はね、ママのお誕生日なの!だから、パパにお願いがあるの」

 にこにこと。
 そんな、可愛らしい笑みを浮かべて。
 告げる少女の言葉に、臨也はこっそりとため息を吐いたのだった。

(シズちゃーーん・・・俺"パパ"になる自信、ないかもしんない・・・)

 中身を聞かずとも、なんだか厄介そうな気がする"願い事"に、さっきまで臨也が寝ていたベッドの上。
 いまだ微睡んでいるだろう彼に、実際に聞かれたらまずいどころではないだろう弱音を。
 本当にこっそりと。
 心の中でだけ、呟くのである。

 もちろん、臨也にだって、彼・・・静雄の誕生日を。
 祝いたい気持ちは、十二分にあったのだけれど。




続・・・・・・・・・かない\(^o^)/


>>愛紡設定で静誕です。静雄は実は臨也と一緒に寝てました。昨夜何があったかだなんてそんな・・・愚問ってもんですよ(にこ!)


(2011. 1.28up)


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