どうしてそんな恐ろしいことを思ったのだろう、多分きっと気が向いただけだ。
 でも、どうしようもなく。



―― i scoop out ――




 俺が何かしたわけではなかった。
 まぁ、勿論、何もしていないわけもなかったんだけど。
 あえて言うなら・・・そう。

『シズちゃん』

 呼びながら笑って近づいただけだ。
 ただそれだけ。



 部屋に入る。
 慣れた自室。
 彼はおとなしくついてくる。
 ぎらぎらと耐え切れないような殺気を漲らせながら。
 だけど握り締めた拳を、こちらへ向けるのでもなく。
 ただ、おとなしく俺の後ろへと続く。

「早く入ってよ、シズちゃん。ぐずぐずしてないでさぁ」

 言いながらどうにも歩みの遅い彼の腕を引っ張って、どさりとベッドへ放り投げた。
 俺のあくまでも人並み程度の筋力になんて、普段ならちっとも動じてはくれないくせに、こんな時ばかりはおとなしく従ってくる。
 そんな様子に、なんだか胸糞悪くなって、思わず笑ってしまった。

「ほんと、シズちゃんって気持ち悪いよね」

 何されるかわかってるくせに、抗わないんだ?
 それとも・・・。

 うっすらと笑む。
 皓々と点した電気の下で、彼の服の白が眩しい。
 もっとも、背のほとんどはベストの黒で塗りつぶされてはいたけれども。
 袖と、襟元の白が、だからこそ余計に眩しく感じられた。

「俺に。こういうこと、して欲しいの?」

 言いながら上にのしかかって、躊躇いなくその場所を掴む。
 ただこの部屋に来ただけで、何もしていないというのに、彼の其処はうっすらと反応を示し始めていた。
 俺は笑う。
 本当に滑稽でおかしくて仕方なくて。
 そしてやっぱり気持ち悪くて。

「あはは。シズちゃんってばほんと気持ち悪い。なんでなんもしてないのに反応してんのさ。罵られて感じちゃったの?シズちゃんってばマゾ?」

 まぁ、わかってたことだけど。

 言いながら耳に息を吹きかけたら、びくびくと躰を震わせるから、なんだか無性にイライラしてさっさと手を放してやった。
 だって気持ち悪いだろう?
 俺はもとより男に手を出す趣味なんてないんだ。
 自分についてるのと同じ、それも他人のきったないもんなんて、本当は少しも触りたくなんてない。
 だけど。

「あっ・・・」

 突然離れた刺激に、名残惜しそうな声を上げながら、それでもこちらを振り仰ぐサングラス越しの目が、声とはまるで別人のようにギラギラと、射殺しそうな程の苛烈さで睨みつけてきていたから。
 俺はぞくぞくと背筋を這い上がってきた何かに逆らわず口元に笑みを吐く。
 熱が下半身に集まるのを感じながら、邪魔なサングラスを弾き飛ばして、ねっとりと彼の耳朶を噛んだのだった。

 はは。
 凄いね、シズちゃん。
 俺完勃ちだよ。

 そんな言葉を、彼の耳に流し込みながら。





+++





 そもそも、俺は何もしていないのだ、彼に。
 少なくとも、彼が思っているような何かなど何も。
 まぁ勿論、手は出したんだけど。
 だって欲しかったんだ。
 あの強靭な鋼の魂に触れてみたかった。
 しなやかで瑞々しいその肌に。
 不安定で脆弱なその心に。
 触れてみたかった。
 だから触れた。
 それだけだ。
 不意打ちだったのは承知しているし、言い包めて、丸め込んで、騙して、挑発して。
 そうやって触れたのが合意の上だったなんて思っていない。
 でも。

「シズちゃんってば、最初の最初っから感じちゃってるんだもん。気持ち悪すぎるよね」

 俺は笑う。
 嘲笑うように。
 馬鹿にするように。
 愛しくて仕方がなくて。
 憎らしくて、仕方がなくて。
 きっと彼は飢えていた。
 人と触れ合うことに。
 飢えすぎていたんだろう。
 その特異な体質のせいもあっただろう、間違いなく誰も触れたことのない、それ以前に自分でだってほとんど何もしたことがなかっただろう、初めてなシズちゃんを押し倒した時、やっぱりすんごく気持ち悪くって、でも俺はその時、生まれて初めてってぐらいの勢いで物凄く興奮したんだ。
 後にも先にも、シズちゃんぐらい、俺をいい意味でも悪い意味でも興奮させられる存在なんてないよ。
 俺は夢見るように笑う。
 そう言えば以前に一度だけ。
 彼の腕を背に受けたことがある。
 立てられた爪は皮膚どころか、肩甲骨と背骨の一部を粉砕し、もう二度と彼の手は背中に誘わないと決めた。
 今はその痕もほとんどわからなくなっている。
 ・・・・・・その辺りのことを、彼は覚えていないようだけれども。
 いや、あれは気付いてないのかも・・・。
 まぁ俺も、やせ我慢ぐらい、するしね。
 だから俺は本当に何もしていない。
 本当に。

 ただ、触れただけで。

 だから、シズちゃんが今もってなんでほとんど無抵抗で俺に抱かれてくれるのか。
 そんなこと俺は知らないんだけど・・・まぁ、頂ける据え膳は、頂くと言うことで・・・一つ。
 ね?

 そうして俺は、今日も彼に触れる。
 ただ、思うままに。
 手で、舌で、肌で、触れて。
 そして、彼の中へ。

 きっと・・・・・・堕ちていく。
 もうとっくに。
 堕ちている、本当は俺こそが。

 俺はただ・・・それも。
 知っている、だけで。


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>>だいぶイミフ。相変わらずエロが、が、が・・・orz


(2010. 3. 8up)


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