まるで赤い果実。
 おいしそうに舐めしゃぶって、頬張って。

 ―はは。そんなにがっつかなくても、存分にくれてやるって言うのに。

 男は笑って唾を吐きかけた。
 痛んだ金の髪に、それはあたかも汚泥のように溶けて。
 何時しか。



―― oral cavity service ――




 ―・・・んっ、ふぅ・・・んん・・・・・・。

 湿った音が、満ちていた。
 何処にも。
 外へ漏れ出る色の見えない部屋の中で。
 禍々しくも真昼のように点けられた照明は、目に映る何もかもを過ぎる程に露わにして。

 ―そうそう。やればできるじゃない。ほら、もっと舌を使って。

 そんなことも出来ないの?

 男の、楽しげな声に、静雄はもとより顰めていた、整った眉根をもっときつく寄せる。
 気忙しい息で、胸を喘がせた。
 だが、塞がれた口からは、満足に呼息することさえままならず。
 鼻から漏れるそれの荒さなど、無様なまでに滑稽で。
 男は笑っていた。
 黒い男。
 静雄の痛んだ金の髪を、躊躇いなく引き掴んで、自分の腰に無遠慮に押し付ける男。
 荒い息を隠すこともなく、真っ赤な舌が自らに這うさまを見つめる。
 熟しきった石榴の紅で、ぬるい口腔に導かれて、生身の其処は、もう充分な強度を保って、秘唇の如く静雄の其処を割り開いている。
 薄く、少しかさついた唇。
 其処から垂れた唾液は、ぬらぬらと光りを反射して、いやらしく男の劣情を煽った。
 もう幾度目とも知れぬ行為だ。
 静雄はにやけた男の面を見上げて、胸糞が悪くなる心地を味わいながら頬を窄めて、喉の奥を絞り、舌先でそれの先端を抉った。
 男の息が詰まる。
 静雄の整った白い頬は苦汁に塗れ、頬張ったそれはどれだけの汚泥であっただろうか。
 たらと、飲み込みきれるはずもない唾液が、口の端を滑った。
 そのまま、肌蹴た首筋を伝い、鎖骨に止まって、やがて布に吸い込まれていく。
 男は片足を動かして、跪いた静雄の股間を踏みつけた。
 独特の強弱でもって刺激する。
 静雄の顔が歪む。
 その、寄せられた眉に。
 どろりと濁った瞳に。
 温かい彼の体温に。
 どうしようもなく煽られて。

 ―っく。

 男は息を詰めて堪えることもせずに吐き出した。
 すなわち、静雄の喉の奥へと。
 それを。
 だが、呑ませきることもせず未だどくどくと熱を持つそれを引きずり出して、白い汚泥で彼の頬を汚した。
 痛んだ金の髪も。
 震える長い睫毛も。
 白い頬も。
 全部全部汚らしく穢れて。

 ―あはは。あははは。はは。いいざまだよ、シズちゃん。

 ぐいと髪を引き掴んで顔を上げさせた。
 穢れた白濁が飛び散って、涙と唾液で汚れ、濁った瞳はぞくぞくするほど醜穢だ。
 響く荒い息遣い。
 男はゆるりと笑んで、静雄を見下ろした。
 然りと視線を合わせて、逸らすことを許さないきつさで縛り付ける。

 ―どぉ?『俺』はおいしかった?

 男はにこやかに問いかけた。
 慈愛に満ちた吐き気のするような笑みを満面に浮かべて。
 まるでおとぎの国のお姫さまみたいに。
 静雄が目を伏せる。
 それは男からの視界の逃避か。
 あるいは彼自身が何かに、耐え切れなくなったのか。
 ぼちゃりと。
 明るい部屋の中で、静雄の滑らかな頬を滑り落ちた白濁が床に吐き出され、一際腐臭を強くしていく。
 これはどんな倒錯だと言うのだろう、背筋を這い上がるのは例えようもない快感だ。

 ―死んじまえ、くそ野郎。

 呟かれた悪態と澱んだ気配は退廃に満ちている。
 静雄の息に、男はまた笑って。
 腕を引き上げて唇を寄せた。
 その白く穢れた赤い果実へと、自らのそれを。

 ・・・――夜はまだ長い。


Fine.


>>状況も背景もログインしたことすらねぇよ!\(^o^)/


(2010. 3.18up)


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