何故こうなったのか。
 静雄にはさっぱりわからなかった。



―― the perversion hobby ――




 静雄の足元には、一人の・・・一人の、人物、が、蹲っていた。
 黒いノーブルなプリーツスカートを揺らめかせて、白いラインの入ったセーラーの襟に、短い黒い毛先が落ちている。
 屈みこんでいるその人物が手にしているのは、静雄の足だ。
 そいつはそれを、熱心に舐めしゃぶっていた。
 静雄は目を閉じる。
 頭痛がした。
 頭がくらくらと痛くなる。
 脱がされた靴下は床に落ちて、素足の指に、舌を這わせている、セーラー服姿の人物は決して女性や、少女などではなくて。

「・・・・・・臨也」

 お前、一体何を。

 本当はずっと言いたかったことを、ようやっと口に出してみる。
 そう、どこぞの女子学生のような格好をした男は、折原臨也。
 列記とした、静雄と同じ年の成人男性だった。
 そもそも、今日始めてみた時から、彼はおかしかったのだ。
 静雄の部屋に、いつものごとく無断で侵入してきて、人の静止など何のその、好き勝手なことばかりする。
 それはそれとして。
 それはいつもどおりだったのだけれど。
 ピチャリと、音がした。
 静雄の足先から。
 彼が口に含んだ其処から。
 生々しい音だ。
 ある種の何かを連想させるような。
 臨也は、ただ笑って静雄を見上げてきた。
 静雄は疲れたような溜め息を吐く。

 はぁ。

 もう、何がなんだかわからなかった。
 彼が何故、こんな服装をしているのか。
 しかも何故、静雄の足を舐めているのか。
 さっぱり理解できない、否彼のことを。
 理解できたことなど一度もなく。
 ならば今日この時、理解などできるはずもなく。
 彼はいつもどおりこの部屋に来た。
 そしていつもどおり、俺のことなどまるで頭にないような顔をして、だが俺に触れて。
 いつもどおりだ。
 それはいつもどおりだったのだ。
 ただ、彼の着ている服を覗けば。
 今日に限って、彼の着ている服は、いつもの黒いジャケットでも、Vネックのシャツでもなく、ひらりと翻るプリーツスカートと、白いラインも眩しい黒のセーラーだけで。
 もちろん、膨らみなどあるはずもない胸元には大き目の赤いリボンがあしらわれていた。
 その姿を、見て。
 静雄に何が出来ただろう。
 思考はがちりと固まって、何の反応も出来ず、臨也の腕が導くままに押し倒されて。
 そして掴まれた足首、引っぺがされた靴下、寄せられた赤い唇。
 静雄に何が出来たことだろう、こんな状況で。
 ただ、混乱して、満足に抗う事もできず。
 ようやっと発することが出来た言葉が、先程のあれだ。

 臨也。

 と。
 ただ、彼の名を呼ぶことだけで。
 そして疲れる溜め息に、臨也は笑っている。
 目を細めて。
 まるでチェシャ猫のようなそれで。
 ぴしゃりと、また一つ湿った音が鳴る。
 指と指の間に、ねっとりと這わされた唾液に、静雄の肩がびくりと振るえた。
 臨也が笑う。
 酷く倒錯した姿で。
 ・・・・・・何が恐ろしいって。
 その姿が、似合っていない、わけでもないことだったろう。
 静雄は頭が痛くなる思いで、溜め息を吐いた。
 ただ深く。
 躰は、熱を持っている。
 こんな異常な状況下で、足をただひたすらに舐めしゃぶられて。
 ただ、それだけで。

「臨也」

 今一度吐息のような声で名を呼んだ。
 深く。
 吐いた息で。

「・・・・・・お前もう帰れ」

 うぜぇ・・・。

 声は力なく落ちたのだけれど。
 勿論、そんな言葉に、この男が従うわけもなく。

「いやだよ」

 シ、ズ、ちゃん。

 妙に弾んだ声で静雄を呼んで、またぞろねっとりと静雄の足の指に唇を押し付けるので。
 静雄も。
 なんだか、頭の芯が痺れたような感じになってしまって。

 はぁ、と。

 ただ一つ、熱い息を吐いたのだった。

 なんだ、シズちゃん、こんなことされても感じてるんだ?
 へんたーい。

 だとか、馬鹿なことをほざく男に、

 うるせぇ、そんな格好してるお前の方が変態だろうが。

 そう、短く返しながら。
 現状の把握を。
 ただ、静雄は、放棄したのだった。


Fine.


>>・・・・・・おかしい・・・こんなはずでは・・・(うぅ・・・)ね・・・ネタ提供して下さったNさんに捧げますぅーーー><← へ、返品可・・・orz


(2010. 3.28up)


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