「・・・ズちゃん、・・・て、・・・シズちゃん!起きてったら。早く支度しないと」

 柔く揺さぶられて目蓋を開ける。
 健やかな朝の日差し。
 朝、目を覚ましたら笑顔満面のあいつがいて。

「シズちゃん?何?寝ぼけてるの?急がないと遅れちゃうよ?」

 今日は結婚式なんだから。

 そんな風に嘯いてみせる、笑顔が何の邪気も纏っていなくて。
 まるで俺の理想そのものにすら、見えたから。
 朝の光が、彼を彩っていた。
 清潔で。
 真っ白で。
 まるで彼に似合わない色の洪水。

「?シズちゃん?」

 夢かと、思ったんだ。



―― rising sun white-light ――




 それは光に満ちて。
 まるで夢のような光景だった。

 髪から垂らされた緩やかなベールが骨張った、だがしなやかな肩を隠し、柔らかなレースが平らな胸元を飾っている。
 あたたかな陽射し眩しく辺り一面真っ白だ。
 其処に一際映えるさわやかな青が窓の外。
 戸惑う俺を差し置いて、何かを言う暇もなく、ほとんど強引に連れてこられたのは、ほとんど足を向けたこともなかった教会。
 そのすぐ脇にある、ブライダル関連も扱う、ホテルの一角だった。
 白くて。
 何処も彼処もきらきらしていて。
 足を踏み出すのを躊躇う静雄に、あいつは・・・臨也は。
 やっぱり笑って。

「シズちゃん?」

 そんな風に。
 今日何度目とも知れず、甘く名前を呼ぶものだから。

「お、おう・・・」

 静雄はただぎこちなく頬を赤らめて応えて。
 自分がらしくないことなんて解っている。
 常はどうしても反発しか覚えないこの男に対して、何故だか今日ばかりは怒りの欠片も湧いてこなくて。
 確かに、見慣れた男で、今日のことも、言われて見れば理解している、それは解っている、だのにふいと、違う世界に来てしまったかのようだとすら思えるのだ。
 通された控え室、身につけるように指示された真っ白なドレスは、自分になど似合うはずがないと言うのに、あの男が選びに選んで、静雄に一番似合うと言い張ったものだ。
 ノーブルで。
 だが、華やかでいてシンプル、そして静謐だった。
 静雄の細い腰を覆うようにあしらわれた豪奢な花飾りも、決してドレスの品を落とすようなものではなく、幾重にも重なる襞は動く度にしゃなりと揺れて。
 まるで自分じゃないみたいで。
 鏡の前で静雄は、戸惑いに頬を赤らめた。
 白い白い空間の中で。
 その、眩しいほどの光に満ちて。
 自分は今日、あの男の隣に立つのだ。
 そうすると自然高鳴る鼓動が、まるで腹立たしいほど。

「っち。くそっ」

 口を付いて出た悪態だって許して欲しい、染められた頬に、迫力など欠片もないことは、自分でも自覚している、だけど。

「臨也の奴・・・」

 きゅっと。
 軽く、唇を噛みながら紡ぎだされるのに、男の名はだけど甘くて。
 その時だ。
 軽い二度のノックと共に開かれるドア、顔を出したのは黒いタキシード姿なんて、見慣れない服を着た件の男。
 そして扉を開いたまま固まったりするものだから、少し不安になってしまって、きゅっと眉根を寄せてしまう。

「なんだよ」

 ぶっきらぼうに問えば、臨也は笑み崩れた。

「うぅん、なんでも。やっぱり凄く似合うから、ちょっと感動しちゃって」

 白い空間だった。
 白い白い光に満ちた場所で。
 近づいてきた臨也が、しなやかに、薄いレース時の手袋に覆われた静雄の左手を取る。
 その薬指には、今は何も付けられてなどいなくて。

「此処に。今日、指輪を嵌めるのが」

 俺は凄く楽しみなんだよ、シズちゃん?

 言いながら落とされる軽い口吻け。
 なんだかたまらなくなって、唇が震えた。

「いざや」

 邪気のない男の笑顔。
 白い白い光に包まれて。
 あぁ、どうして。
 自分は今。

 こんなにも幸せで。

 目尻に溜まる涙を自覚して、そっと目蓋を伏せる、それは何かの儀式のように。
 そしてふっと、意識は白く呆けていくのだ。





+++





 なんだったのかと。
 ぼんやりと薄目を開けた。
 変な夢を見た気分だった。
 なんだか妙にふわふわと漂うような、真っ白で。
 幸福に満ちた・・・そんな。

 そうして、微睡む意識に、男の声が聞こえ始める。

「・・・ズちゃん、・・・て、・・・シズちゃん!起きてったら。早く支度しないと」

 聞き慣れた声だ。
 だが聞き慣れない、甘く柔らかな声で。
 そっと開けた目蓋の向こうは白。
 さわやか過ぎるほどの白い光。

「・・・・・・いざ、や?」

 呼ぶ声はもつれるようだった。
 それは、眠気ではなくて、ただ。

「?どうしたのシズちゃん」

 男が笑む。
 柔らかく。
 まるで邪気のないような、見たこともない顔をして。
 それはまるで真っ白な。

 ああ。

 夢かと、思ったのに。



 白い、光に包まれて。
 蕩けるような眩しさの中で。


Fine.


>>誰これ^q^ キャラ崩壊スマソ・・・orz


(2010. 4.20up)


>>BACK