―― in summer night 2 ――




 綺麗な琥珀を覗き込む。
 涙で潤んで、揺らめくような。
 甘い、甘い蜜色の。
 口吻けの間中、ずっと逸らさなかった瞳。
 逸らすことを、許さなかった瞳だ。
 緩く笑んで、ぺろりと彼の頤を舐めた。

「シズちゃん?」

 その一瞬、絡んだ視線が逃げていくのを咎めるように、注ぎ込むように耳元で名を呼べば、びくりと震える躰は確かに臨也のそれより大きかったのに、細く。
 しなやかで、熱い。
 くすくすと喉の奥で笑って、鼻先で掻き分けた首筋に口吻けた。
 微かに湿った汗の匂いは、彼の微かな体臭と混じって臨也を酔わせる。
 這わせる舌先に甘い。

「っぁ・・・ぁっぅうっ・・・・・・!」

 閉じきれない彼の唇から、呻くような声が漏れて、臨也はますます楽しくなった。
 抱きすくめるように腰に這わせていた手を下にずらして、薄い布越しに形のいい、柔い二つの丸みを掴む。
 ぐいぐいと手のひらで遊ばせる、決して大きくもなく、さりとて柔らかすぎもしない、しなやかで弾力のある臀部は思う以上に手に心地よく。
 臨也は彼が嫌いだった。
 嫌いだったけれど。
 大嫌いな彼の中で、此処は一つ、好きな場所。
 知らず口の端を舐める。
 それが酷く性的に静雄の目に映ることなど、意識せずともきっとどこかでわかっていて。
 口吻けはすでにくつろげた襟元から、鎖骨へと滑り落ちて、すんと一つ、息を吸った。
 草木の匂いが濃い。
 立ち昇る熱のアスファルト。
 何処からか香ってくる夕餉の香り。
 そして、彼の汗の。
 街は雑多な匂いに溢れて、それら全部に何処かしら、夏の気配が混じっているような気がした。
 臀部に這わせたのと逆の方の手は、彼の前を刺激し続けている。
 もどかしさに疾うに袂を分けて、直接指を滑り込ませて。
 熱を持ったそれを握りこんで、ぐりぐりと先端に指の腹を押し付けた。
 折に触れ爪で抉りさえして。

「ぅわぁっ・・・!ぁあっ・・・!」

 びくびくと震える躰、上がる声、それはこれまで何度となく行ってきた行為だと言うのに、彼の反応は最初の頃からちっとも変わらない、ただ、臨也の目には楽しく。
 心の何処かが、捕らわれるようだ。
 白く。
 浮かび上がるような滑らかな首筋を、また一つ舌でなぞった。

「シ、ズ、ちゃん?本当に・・・はしたないよね、君は」

 もうぐちょぐちょだよ?
 手もほら・・・こんなに汚れちゃった。

 滾る熱に、声が知らず荒くなる。
 少し掠れて。
 でも、とろりと瞳を滲ませた彼にはきっと、欠片も気付かれてはいなかっただろう、す、と、それまで思う様彼自身を握りこんで、ぐっしょりとした湿り気に塗れた右手を、言いながら彼の視線の先まで掲げて見せた。
 痛んだ金髪がぱさりと。
 彼の微かな動作に合わせて音を立てて。
 ぱちりと数度、重く繰り返される瞬きの向こうで、イビツに顔を歪ませた臨也自身が、くっきりと映し出されている。
 ぬちゃりと。
 彼の体液に濡れたままの手で、彼の頬を弄って、やはり濡れたままの親指を、こちらもまだ、どこかしっとりと唾液に揺れる唇に這わせた。

「なめて?」

 短い言葉でやんわりと潤む唇に先を促せば、おずおずと開かれるあわいから、小さく空気に触れた舌。
 ついさっき臨也が貪った口内が、暗い洞のよう。
 親指を何の躊躇もなく押し込むと、びくりと彼の肩が震えた。
 そのまま指と舌とを絡める。

「いい子」

 緩く笑んで、彼の臀部に這わせたままの手、指先に力を込めた。
 わし掴むようにして指を食い込ませて。
 臨也の着る浴衣を縋るようにして掴んでいた彼の指先に、白くなるほど力が入り、薄い生地が悲鳴を上げた。
 あまり宜しくはないなと眉根を寄せて、彼の舌を弄んでいた親指を暗いあわいから引っこ抜いた。
 もう片方の手も、彼から離して、すっかりと露わになった、滑らかな肩を掴む。
 本当はもっと色々と、味わいたかったのだけれど・・・場所が宜しくない。
 潤みきった彼の瞳に、この辺りが限界かと悟って。

「ほら、シズちゃん、後ろ向いて。ちゃんと君の欲しいモノ、突っ込んで上げるから、さ?」

 言いながら唇を噛み締めて顔を顰める静雄に構わず、自分ではとり辛いだろう屈辱的な体勢をとらせた。
 つまり二つのまろい真白のそれだけをこちらに突き出すような格好だ。
 彼の両の手が壁の上で握りこまれて、白く節を浮き上がらせている。
 縋るものないそれを、気の毒に思わないでもなかったけど。

 まぁ、変に何かに縋らせても、それを壊しちゃうだけだしね?

 それで使い物にならなくなったシーツが幾枚あったことだろうかと考えかけて止めた。
 詮のないことだったからだ。
 薄い生地をたくし上げて、白い双球を露わにする。
 もとより遮るもののない其処は滑らかで。
 しっとりとして。
 暗い夜の中で、浮かび上がるような白さだ。
 ごくりと唾を飲み込んで、早急に自分も下肢を寛げた。
 ぴとりと滑らかな肌に押し付けたのは、疾うに熱く硬くなっていた臨也自身だ。
 湿り気を帯びた先端で、暗く熱い彼の入り口までを押し広げて。
 滴る体液に、其処はひくひくと酷く物欲しげに蠕動を繰り返している。
 思えば其処に。
 少しだって触れてはいないけれど。
 まぁ、数時間前までは臨也を受けれいていたわけだし。
 もとより慣れた躰だ、取り立てて問題はないだろうと、彼の細い腰をきつく掴んで強引に押し進めた。

「ぅっぁああっ・・・!!」

 本当に。
 君はいやらしいよね。

 口には出さない言葉を。
 彼の悲鳴の中に織り交ぜて。





+++





 夜は深かった。
 喧騒は遠く、辺りは静寂に包まれている。
 肩で息をする、ぐったりと壁に寄りかかって地面にへたり込んでしまっている彼を見て、臨也はさてどうしようかと少しだけ思った。
 彼を抱えて帰るのは、流石に少々難しい。
 出来れば自分で歩いて欲しいのだけれど、それが可能かどうかがわからなくて。
 きっちりと着付けていたはずの浴衣は乱れて、辛うじて解けきってはいない腰紐で引っかかっている程度。
 唾液と体液に濡れた唇、頬も。
 白濁の流れる腿も。
 酷く性的で、どくりと、また一つ鼓動が鳴ったけれど。
 はぁ、と、一つ溜め息を吐くことで沈めて。

「動ける?シズちゃん」

 言葉と共にしゃがみ込み、彼の浴衣を調えにかかる。
 とは言っても、何かを拭えるようなものなど持ってはいないから、上からかぶせて行くだけに近い。
 ただ、袂を合わせて、白い足を、胸元を。
 その先のピンクの頂をやんわりと薄い布の向こうに、覆い隠していく。
 それだというのにどうしてこうもストイックになりきらないのか。
 最後に指の腹で濡れた唇を拭った。

「シズちゃん?」

 応える様子がないのに潤む琥珀を覗き込んで促す。
 暗い闇の中で浮かび上がるように白い頬も、同じように指で拭って。
 そうしたら、ぼんやりと。
 陶然とした視線が、臨也の紅い瞳をとらえて。
 ぼんやりと唇が震えた。

「いざや」

 微かな声で呼ばれて。

「ん?どうしたの?」

 顔を近づける。
 それこそ、唇が触れそうになる距離まで。
 そうしたら。
 ガツリ、額に凄い衝撃が走った。

「っつぅ〜〜・・・」

 星が飛ぶとはまさにこのことだろう、何をされたのかなど理解している。
 紅くなっているだろう額を両の手で押さえた。
 目の前には眇められた琥珀の瞳。
 潤むそれは変わらないのに、さっきよりずっと険を増やしていて。

「ばぁか」

 いまだ微か濡れた唇から飛び出したのはそんな一言。
 臨也は思わず溜め息を吐いた。
 肩を落として。

「そんな口が聞けるなら大丈夫でしょ。ほら、立って」

 一瞬迷って手を差し出す。
 静雄はふんと一つ鼻を鳴らして、その手を使わずに立ち上がった。
 夜の闇は深く、街灯は遠く、草の匂い濃い、静寂に満ちた住宅街。
 立ち上がった彼の足に迷いはなく、闇の中でもすっきりとした立ち姿は、やはり美しく臨也の目に映る。
 先に歩き出した彼の後に続きながら、なんとなく問いかけた、答えはまぁ、別にどうでもいいかな、とも思いながら。

「ねぇ、これからさ、出かけなくてもいいから時々その格好してよ」
「そんでおまえに抱かれろってか?バカ言ってんなよノミ蟲が」

 吐き捨てるように、打てば響く速度で返された応えに苦笑して。
 まぁ、彼の意見など。
 ほとんど聞いたりしないけれどと。
 内心舌を出した夜。
 いつもと違う様相の彼は、もうそれだけで匂い立つようなのだった。
 夜の静寂の中、二人。
 並んで歩きながら。




Fine.


>>まぁ、愛早の常套手段として、えろシーン、前戯書く時は挿入がゴール地点って言う、ね・・・(遠い目)


(2011. 5.18up)


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