ただ、いつもと違うシズちゃんが見たかったんだ。
それだけ。
―― of unusual morning ――
電車が、揺れている。
がたり、ごとり、歪みのない振動で。
がたり、ごとり、昨日と何も変わらない姿で。
俺はその中の一つ、とある車両の扉の角。
其処へ、彼を押し付けて、ただ、鼻先を、甘酢っばい気さえする彼の首筋へと埋めていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息が荒い。
それは彼の息で、俺の息でもある。
荒い息だ。
「この・・・くそ野郎っ・・・」
尽きない悪態が、彼の唇からこぼれ出すから、俺は笑った。
俺より背の高い躰を、冷たい鉄の扉に押し付けて、疾うに露わにした彼自身を嬲る。
上手く身動きの取れないような混雑の中で本当は彼を、囲うようにして包み込みたかった。
まぁ、体格差ゆえに適わないわけだけれども。
びくりびくりと逸らされそうになる広く、だが細い彼の躰を抱え込む、俺の躰全部で。
全部を、押し付けるようにして。
とりわけ興奮に硬くなった其処は、殊更強く押しつけた。
ぐしゅり。
微かな水音が、俺の手の中から。
握りこんだ彼から漏れて、その音の美味さに聞き惚れながら、ねっとりと彼の耳に舌を這わせる。
少し塩辛くさえ感じる汗の匂いに、人の肌特有の生臭さが掠めて、どうしようもなく興奮した。
人いきれ。
むせ返るほどの人の波。
こんな狭い箱の中で、揺られて。
人は何処へ向かうのだろう。
そんなことを考えることだって、俺を酷く楽しませるのだけれど。
それより今はただ目の前のくすんだ金髪が楽しかった。
ぱさり、唇で食むと舌を強く引き攣るような感じがして、だけ出来にせずに分け入る、項。
むわりと、酷く微かな彼の体臭が一際きつく、胸に落ちてくる
ああ。
ぐちゅり。
握りこんだ、彼自身は過ぎるほど勢いをつけていて。
それの先端を彼の目の前の鉄に押し付けてやると、彼は多分気付かないで、微かに腰を揺らめかしていた。
ダメだよ、シズちゃん?
「そんな可愛くない口ばっかりきいてたら、ちゃんとご褒美・・・あげないんだからね?」
俺は嗤った。
短い金髪の毛先に、鼻先を埋めながら。
透明なはずの窓ガラス越しに彼を見る。
彼の荒く淫らな息で、すっかり曇ってしまった冷たい珪素の塊。
ぷしゅりと、俺の後ろから、錆び付いた車内を、更に酷くさせる様な音が響いて、開いていた扉が閉じた。
ゆっくりと動き出す地面に、俺は不安定な躰を、彼に押し付けることで支えて、だが、彼に触れる手は止まらないまま。
彼自身に、ねっとりと指を這わせる。
その先の小さく丸く、柔い二つの膨らみまでの道筋や、先端の近く、きちゅりと指に引っかかるラインまで。
きっと彼の性器で、俺の触れていないところなど何処もなかったことだろう硝子越しに。
真っ赤に濁った、常はいつだって澄んでいる、縋るような眼差しを感じた。
真っ直ぐと俺を見るのにぼやけて。
もう彼が、ほとんど意識を保っていないことを知る。
恐らくは。
羞恥や何かに、自我が悲鳴を上げたのだろう、そんなことはどうでもよかった。
「シ、ズ、ちゃん・・・?」
彼の名を呟く、それだけで息が荒くなるようだ。
腰の高ぶりを押し付ける。
下へ這わせた指は、そのまま彼自身から逸れて、更にその奥まで。
彼の唾液に濡れた指は、また彼の胸元へ。
嬲るように這わされて。
彼の背に。
俺が、しがみつくような格好であることがいっそ滑稽だ。
頑なな、だが、前から垂れてきたそれに既にしっとりと濡れている肉の窄まりを、指先でノックすると彼の躰がビクビクと触れた。
まるで瘧のように。
俺はその躰に、宥めるようにして触れながら、少し無理のある姿勢だがそんなこと少しも気にせず、つぷりと指を沈めてみる。
ぬるい熱さは驚くほど肌に馴染んで、もとより興奮しきりの俺に、ますます血が集まった。
あぁ、このままじゃ。
熱い息を吐きかける、彼の首筋。
ガタリガタリ、不規則で不定期的な電車の揺れは、だが単調なリズムを刻んで、彼の顔は恍惚に歪んで、様子がおかしいことなど、周囲には容易に知れたことだろう、だが誰も気にしたりなんかしない人に埋め尽くされた狭い箱の中で、俺は彼の胸を弄っていたもう片方の指も下へと差し込み、ぎちゅと、湿った音に溢れた其処を強く握りこんだのだった。
「ぁっ・・・!」
散々に煽られて限界だったのだろう、後ろに俺の指を含んで、彼自身の先を鉄の扉にこすりつけたまま彼が軽い絶頂に陥るのと同時に、微かに窓硝子に白い物が飛び散った。
独特の異臭は、だが周りの噎せるような人の波にまぎれて、それでも確かに鼻に届く。
俺は笑った。
荒い息で。
口端を歪めて。
電車が減速を始める。
もう直次の駅に着くのだろう、ならばもう、今度こそは。
手早く彼の身支度を整えさせて、特に引きずり出していたそれも汚れたままなのを構わず窮屈な布の中に押し込む。
「っ・・・」
びくりと躰を揺らしながらだが声も上げられずにいる彼の頬を、汚れたままの指の背で撫でた。
滑らかな白い肌、力の抜けた、扉にもたれてようよう立てている状態の彼に、伸び上がって掠めるような口吻けを送って。
俺は彼の耳に荒く乱れた息を流し込む。
「ご褒美を・・・あげるからね?」
ふ、と。
はぁ、と、熱い息を吐きかけて、減速していく車内、止まると共に外へ吐き出される空気にまぎれて、ふらり揺れる彼の躰をその狭い箱の中から面へと促して、もう、車内など見ずに。
ゆれる彼の躰に、ますます笑みを深くする。
あの扉の硝子は、ところどころ白く汚れて、異臭を放ったまま、それは確かに彼の欠片で、少しもったいなかったかな、なんて、馬鹿馬鹿しいことを思いながら。
常よりもずっと容易く、違って見える白い頬に、歓喜の口吻けをまた一つ。
そっと厳かに送ったのだった、確か見えた、常とは違う姿に、正直心の内。
酷く興奮を煽られながら。
ただ。
そう、彼のこんな顔を見たかったのだと。
蕩けるような笑みで。
笑いかけた先では、彼はいまだぼんやりと、こちらを見つめてくるだけなのだった。
朝の濃い時間。
緩やかに、また、瞬く間に空けていく日常の片隅で。
それはなんでもない、とある日のこと。
Fine.
>>ようわからんことになった。。。ひとまず言えることは、この後臨也んは駅のトイレとかに静雄を連れ込んで最後まで致すと思います、常考。それだけー。。。
(2010. 4. 3up)
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