ガタリ、ガタリ、電車が揺れる。
揺れて、揺れて。
やがて止まった。
決まりきったアナウンスと共に、吐き出される空気。
開いた扉は、静雄の押し付けられている方とは違う方の扉で。
ぼやけた頭で、ほっと息を吐く。
まさか、こんなところを。
他の誰かに見られるわけにはいかない、こんな・・・下半身を丸出しにして、興奮に頬を赤らめている男の姿なんて。
ぎゅっと目蓋を閉じた。
扉の硝子越しに見える、臨也の視線から逃れるようにして。
―― lip laugh at ――
プシュッと、車内の温度が抜ける音がして扉が閉まる。
背後で動く人の波に、扉に押しつけらたままの静雄は、ただ顔を出来るだけ伏せていた。
赤い頬を。
見る人が、いないように。
臨也の手は、変わらずに静雄自身を掴んでいる。
もう一つの手は、緩めた襟元から素肌に忍び込んで。
静雄に触れて。
触れて、疾うに同じ体温になった違和感の少ない男の指先が、静雄の胸の頂を掠った。
びくりと、躰が揺らいでしまう、こんな反応は臨也を喜ばせるだけだと、疾うに静雄は知っているのに。
それでも。
ギュチュっと、湿った音が股間から響いて、恥ずかしくなる。
その微かな音は、動き出した電車の振動と駆動音に紛れて、きっと他には届きやしないのに。
だのに何故だろう、静雄の耳にはやけに大きく響くのだ。
「あっ・・・はぁ・・・」
美味く閉じられない唇から漏れた息は濡れて、頭の芯が痺れるようだと思った。
もうとっくに痺れて、曖昧な思考で、だけどもっと。
もっと、溶けていく。
臨也の器用な指先が、静雄自身の裏側から頂の辺りを這って、その下の会陰部までをなぞった。
曖昧な拘束で、だが空気に触れていると思っていたそれは、冷たい鉄の扉に押しつけられていて。
先の割れ目を潰すように酷く無機物が触れた。
「っ・・・!」
背が仰け反りそうになるのだけれど、後ろにいる臨也が、そんな身動きを許すはずはなくて、また、満足に躰を動かせない混雑が、静雄の躰を労せずして縛り付けていた。
「だぁめだよ、シズちゃん」
くすくすと笑いながら耳朶に忍び込まされた臨也の声は、微か。
本当に微か。
揺れ動く車内の駆動音に塗りつぶされていくのに、静雄の耳には酷く淫猥にこびりついて。
「・・・っ・・・く、そっ・・・」
辛うじて吐いた悪態にも迫力などあるはずもなく。
ギチュリ。
静雄自身からまた、湿った音が響いた。
分厚い外との障壁に、押し付けられた其処から零れ出る何かを知覚する。
あるいは静雄自身とも言えるそれは、ぬたりと光りながら、少しも静雄からは見えない位置で、静かに地面へとシミを流したのだった。
「かぁーわい」
臨也の息は荒い。
涼しいようでいて、この男も充分に興奮しているのだと、静雄に知らしめるには充分な荒さで吐かれた揶揄に、静雄の眉間の皺が増えた。
ぴくり、ぴくりとこめかみが引きつるのに、臨也は気付いていながらも、ちっとも頓着する様子もなく。
胸を張っていた手が、静雄の口に無造作にかき入れられる。
ぐちゃっと、やはり湿った唾液の音を立てて、咥内を無遠慮に嬲られるのに、荒くなった息では静雄は満足な抵抗一つ出来ず。
知らず、縋るようにして握り締めていた、扉脇の手すりがバキリと無粋な音を立てた。
慣れた破壊音は、だが、やはり無造作に唇から引き抜かれた臨也の手が、宥めるようにさするのに力を抜いて。
悔しくなった。
がたり、ごとり、電車特有の揺れはまだ止まず。
減速していく車体が、次の駅が近いことを教えていた。
湿った音が、響いている。
ぬらり、ぬらりと。
局部を丸出しにして、無様に扉に押しつぶされる静雄を、嘲笑うかのように。
「この、くそ野郎っ・・・っ・・・」
幾つも吐き出す悪態は、それと連動するような臨也の手に翻弄されて。
ガタン。
と、派手な振動の後で、車体はホームに滑り込んだ。
ぷしゅり。
また、開いた扉は向こう側の。
臨也は笑っている。
磨き抜かれた硝子扉の中で。
唇に見慣れた笑みを刻んで。
笑って。
「ダメだよ、シズちゃん?」
そんな可愛くない口ばっかりきいてたら、ちゃんとご褒美。
上げないんだからね?
熱い息を首筋にかけて。
笑う、笑う、まるで悪魔の笑みで。
ああ。
静雄の頭はぼやりと溶け出して。
景色も次第に曖昧になって。
ぷしゅり。
また一つ鋭く鈍い音で開閉される扉、動き出した流れる景色も、その中に映る自分の赤い顔も。
何もかもわからなくなって。
「シズちゃん」
首筋に当たる臨也の息と。
握りこまれた、静雄自身の、どくどく言う熱さだけが本当。
電車は走る。
まるで人の欲望だけを、乗せるようにして。
ただ、朝の空気を切り裂いて。
車内の人の波は。
少しずつ、厚みを増しているのだった。
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>>無駄なエロシーンorz 何これorz
(2010. 3.30up)
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